歴史の絡まりを解きほぐす「MECE」の思考法——「なんとなく」からの卒業

徒然なるままに→

歴史の話をすると、「複雑すぎてわからない」「登場人物が多すぎて頭に入らない」という声をよく聞きます。

確かに、日本の歴史だけを見ても数千年の時が流れ、そこには無数の人間、戦争、法律、文化が絡み合っています。これらを「なんとなく」眺めているだけでは、頭の中がごちゃごちゃになるのも無理はありません。


そこで役に立つのが、ビジネスの世界でよく使われる「MECE(ミーシー)」という概念です。

元来は「モレなく、ダブりなく(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)」情報を整理するためのロジカルシンキングの用語ですが、実はこれ、歴史を整理して理解するための最強のツールでもあるのです。

歴史を「箱」に分けて整理する

MECEの基本は、物事を構成要素に分解して、整理された「箱」に入れることです。

歴史を学ぶ際、最も汎用性が高く、強力なMECEのフレームワークがあります。それは、歴史を以下の4つの箱に分けて捉えることです。

  1. 政治(Politics):誰が権力を持ち、どんなルールで統治したか。
  2. 経済(Economy):人々はどうやって食べていたか。お金はどう回っていたか。
  3. 社会(Society):身分制度、家族のあり方、人口動態はどうだったか。
  4. 文化(Culture):人々は何を信じ、どんな芸術や思想を生み出したか。

これを「PESC(ペスク)分析」などと呼ぶこともありますが、要は歴史という巨大な織物を、縦糸と横糸に分解して見る手法です。

たとえば、「室町時代」という時代を理解しようとしたとき、教科書を最初から最後まで漫然と読むと、将軍の後継者争い(政治)の話の次に、急に能や狂言(文化)の話が出てきて、また土一揆(社会)の話に戻る……といった具合に、情報が錯綜して混乱しがちです。

ここでMECE的な思考を発動させます。

「まずは『政治』の箱だけを見てみよう」と決めるのです。すると、室町時代は「将軍の権力が弱く、守護大名が力を持っていた連合政権的な時代」という骨格が見えてきます。

次に「経済」の箱を開けます。「日明貿易で銭が大量に流入し、貨幣経済が爆発的に普及した時代」という特徴が浮かび上がります。

こうして箱ごとに整理ができると、今度は箱と箱のつながり(因果関係)が見えるようになります。

「なぜ守護大名が力をつけたのか(政治)? それは、彼らが領内の経済発展を取り込み、独自に貿易などを行って力をつけたからだ(経済)」

「なぜ、下剋上や土一揆が頻発したのか(社会)? それは、貨幣経済の浸透で貧富の差が拡大し、借金に苦しむ層が増えた一方で、力をつけた地侍や商人が古い権威に従わなくなったからだ(経済・社会)」

このように、ごちゃごちゃに見えた歴史事象が、実は綺麗な因果の鎖でつながっていることに気づきます。MECE力とは、カオスな歴史を「わかる」状態にするための整理棚なのです。

「漏れ」に気づく力が、歴史観を深める

MECEの「モレなく」という視点も、歴史学習において非常に重要です。

私たちが学校で習う歴史は、往々にして「政治史(権力者の歴史)」に偏りがちです。

「誰が将軍になった」「誰が戦に勝った」という話ばかりで、その時、庶民がどんな暮らしをしていたのか、経済がどう回っていたのかという視点が「モレて」いることが多いのです。

しかし、大人の学び直しでは、この「モレ」を意識的に埋めることができます。

「信長の天下統一事業(政治)はわかった。では、その軍資金を支えた『経済』はどうなっていた? 楽市楽座の効果は?」
「平安貴族の優雅な生活(文化)はわかった。では、その裏側で地方の農村(社会)はどうなっていた? 荘園制度の実態は?」

このように「今、自分は政治の箱の話をしているが、経済の箱が空っぽだぞ」と気づけることこそが、MECE力が身についている証拠です。

私のブログで記事を紹介する際、海外の研究者がしばしば日本の「宗教観」や「女性の地位」といった、従来の日本の教科書では脇役にされがちなテーマ(社会・文化の箱)に光を当てることに驚かされることがあります。

彼らは、日本人が見落としがちな「モレ」を突くことで、歴史の全体像をより立体的に浮かび上がらせようとしているのです。

現代の課題解決への応用

歴史をMECEに分解して考える癖がつくと、現代のニュースや社会問題に対しても、非常にクリアな視点を持てるようになります。

例えば「少子化問題」という複雑なテーマについて考えるときも、いきなり「保育園を増やせばいい」と飛びつくのではなく、まずは箱を用意します。

  • 経済的要因:若者の収入、教育費の高さ
  • 社会的要因:晩婚化、核家族化、ジェンダーロールの意識
  • 政治的要因:子育て支援策の不備、税制
  • 文化的要因:結婚や家族に対する価値観の変化

こうして分解してみると、「経済的支援だけで解決する問題ではないが、経済は重要な一要素である」というように、問題の構造を冷静に捉えることができます。

歴史の分析で培った「物事を構造的に見る力」は、そのまま現代社会を生き抜くためのリテラシーになるのです。

「世界を整理する」という快感

元となったエッセイには、「MECE力とは、世界を『わかる』と『動かせる』に変換するための見取り図だ」とありました。

歴史においても全く同じです。膨大な過去の出来事を、ただの情報の山として放置するのではなく、自分なりの「箱」を用意して整理整頓してみる。すると、バラバラだった点と点がつながり、歴史が一本の壮大なストーリーとして動き出します。

「なんとなく全部が難しい」という状態から、「ここは分かる、ここはまだ知らない」という整理された状態へ。

歴史の学び直しにおいて、知識量以上に大切なのは、この「知識を格納する棚」を頭の中に作ることです。棚さえしっかりしていれば、新しく知った事実は適切な場所に収まり、知識は雪だるま式に増えていきます。

私のブログが、皆さんにとっての良き「整理棚」の役割を果たせれば、これほど嬉しいことはありません。複雑な日本の歴史を、あえてシンプルに、構造的に切り取ってみる。そんな知的な冒険を、これからも一緒に楽しんでいきましょう。

[この記事を書いた人]

Alex Kei(学び直し歴史ライター)

早稲田大学創造理工学部卒。複数の教科書と専門書を読み比べながら、【大人の学び直し】に特化した記事を執筆しています。


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