「1.2mmの穴」を開ける人へ──心配性が実は「未来予知能力」である理由

徒然なるままに→

ある思考実験から始めましょう。

あなたの手元に、一辺が2センチの小さな正方形の木材があります。この真ん中に、直径1センチのボルトを通したい。さて、あなたはドリルで「何センチの穴」を開けますか?

世の中には、大きく分けて3通りの人間がいます。


一人目は、迷わず「直径1センチ」の穴を開ける人。

「ボルトが1センチなんだから、穴も1センチ。それが正解だろう」という理論派です。しかし、現実には0.1ミリのズレやボルトの歪みがあるため、ボルトは入りません。現場で最も苦労するタイプです。

二人目は、「直径1.5センチ」の穴を開ける人。

「入らないとイライラするし、面倒だからガバガバにしておこう」という効率重視派です。ボルトはすんなり入ります。しかし、穴を広げすぎたせいで、木材の「残りの壁」は片側わずか2.5ミリしかありません。ボルトを強く締めた瞬間、木材はパキッと割れてしまうでしょう。

そして三人目は、「直径1.2センチ」の穴を開ける人。

「1センチでは入らないリスクがある。でも1.5センチでは強度が落ちて割れるリスクがある。入りやすさと壊れにくさ、そのギリギリのバランスはどこだ?」

そう悩み、計算し、慎重に1.2センチという「半端な数値」を選ぶ人です。


あなたは、どのタイプでしょうか。

私は三人目です。

もしあなたが三人目の「1.2センチを選ぶ人」だとしたら、日常でこう感じているかもしれません。「自分はあれこれ気にしすぎな性格だ」「もっと単純に考えられたら楽なのに」と。

しかし、断言します。それは「気にしすぎ」ではありません。

あなたは、他の人には見えていない「時間軸」が見えているのです。

知識ではなく「時間」を見る力

1センチの穴を開ける人は、「図面(静止画)」しか見ていません。

1.5センチの穴を開ける人は、「ボルトを通す瞬間(現在)」しか見ていません。

しかし、1.2センチを選ぶあなたは、「ボルトを通す瞬間(現在)」と「その後の使用中に負荷がかかる未来」の両方を同時にシミュレーションしています。

「入りやすくしたい(現在)」と「壊れないようにしたい(未来)」。この相反する要素(トレードオフ)を直感的に天秤にかけ、「全体最適」を導き出す。これは単なる心配性ではなく、「リスクに対する解像度が高い」という稀有な才能です。

この能力の本質をさらに掘り下げるために、もう一つの問いを投げかけましょう。

Googleマップ vs ベテラン運転手

ある目的地へ向かうルートが2つあります。

Aルート(Googleマップ推奨):住宅街の細い裏道を抜けるルート。信号は少ないが、道幅は狭く、見通しが悪い。計算上の到着時間は「15分」。

Bルート(ベテラン運転手が選ぶ道):片側2車線の大きな幹線道路。信号も交通量も多い。計算上の到着時間は「18分」。


Googleマップは「Aルートの方が3分も早い。なぜこっちに行かないんだ?」と主張します。これは「1センチの穴」を開けようとする理論派の思考です。

しかし、あなたが「1.2センチの穴」を開ける感覚を持っているなら、ベテラン運転手がなぜBルートを選ぶのか、直感的にわかるはずです。

彼らは「時間」以外の、ある「見えないコスト」を計算に入れています。


第一のコストは、「分散(バラつき)のリスク」です。

Googleが示す「15分」はあくまで平均値です。狭い裏道では、ゴミ収集車が前にいたり、対向車とすれ違えなかったりすれば、簡単に30分かかってしまいます。一方、広い幹線道路は、多少混んでいても「最大で20分」あれば着きます。

プロは「最速」よりも「確実」を選びます。これは、穴を1.2センチにして「入らないリスク」と「割れるリスク」の両方を最小化する思考と全く同じです。

第二のコストは、「認知コスト(脳のスタミナ)」です。

細い裏道では、「子供が飛び出してくるかもしれない」「自転車が出てくるかもしれない」と、常に神経を張り詰めなければなりません。これは脳にとって莫大なエネルギー消費です。

たった3分の短縮のために、脳をヘトヘトに疲れさせてしまっては、目的地に着いた後の仕事に支障が出ます。

「3分遅くても、脳を使わずに走れる道」を選ぶ。これもまた、強度(自分のパフォーマンス)を守るための「1.2センチの選択」なのです。

歴史の中の「1.2センチ」

この視点は、ビジネスや日常生活だけでなく、歴史を読み解く上でも強力な武器になります。

歴史の教科書を読んでいると、「なぜこの武将は、圧倒的に有利な状況ですぐに攻め込まなかったのか?」と疑問に思うことがあります。後世の私たち(Googleマップ的視点)から見れば、最短距離で攻めれば勝てたように見えるからです。

しかし、その武将には見えていたのかもしれません。

「もし雨が降ったら行軍が止まる(不確実性)」

「兵士たちが連戦で疲弊しており、これ以上無理をさせると寝返るかもしれない(強度の限界)」

彼らは臆病だったのではなく、「勝利」というボルトを通すために、「軍の崩壊」という壁割れを防ぐための「1.2センチの余裕(バッファ)」をあえて設けていたのです。

織田信長も、徳川家康も、あるいは蘇我稲目も。歴史に名を残す人物たちは皆、理論上の正解よりも、現場のリアリティを加味した「絶妙な半端さ」を選択してきました。

結論:その「違和感」を信じろ

もしあなたが今後、何かを決断する際に「周りはイケイケドンドンだけど、なんか怖いな」「効率はいいけど、ここが弱点になりそうだ」という違和感を抱いたとしたら。

それを「自分の性格が細かいせいだ」と切り捨てないでください。

その違和感は、あなたの脳が高速で未来をシミュレーションし、「壁が割れる音」を幻聴として聞き取っている証拠です。

1センチの完璧主義でもなく、1.5センチの楽観主義でもなく、1.2センチの「最適解」を選び取れるバランス感覚。

それは、不確実な未来を生き抜くための、最も頼りになる羅針盤なのです。

[この記事を書いた人]

Alex Kei(学び直し歴史ライター)

早稲田大学創造理工学部卒。複数の教科書と専門書を読み比べながら、【大人の学び直し】に特化した記事を執筆しています。


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